◆ CONTAX 159MM + Sonnar 2,8/85 T*


    CONTAX 159MM + Sonnar 2,8/85 T*
     CONTAX S2bを手放してから暫く遠ざかっていた京セラコンタックスに再び接したのがこの159MMだ。それというのも85ミリのゾナーを使ってみたくなったからであり、それがなんで(RTSIIIはでかすぎるにしても)Ariaではなく159MMなのかというと、これが手巻き上げのできる一番新しいカメラだったからだ。こう書くとS2bはどうなんだと云われるかもしれない。実のところあのカメラは嫌いじゃないのだが、シャッター音が今ひとつ好きになれなかったのと、こっちのほうがより重大な問題なのだが、中古のくせにちっとも安くなっていないのが選外となった主な理由だ。
     手巻きに拘ったのはわけがあって、わたくしは自分の意志で巻き上げないと写真を撮った気分になれないのである。云うまでもなく巻き上げなんぞは写真の生成になんの関わりもない。真正面から写真を撮っている堅餅の焼き冷ましのような人には失笑ものだろう。いつでもすぐにシャッターを切れる状態を維持するという点で、すなわち撮影者が撮影以外のことにさく労力を軽減するという点で、自動巻き上げはカメラの正当な進化である。その進化を拒絶して旧態然とした撮影前の作業――または手間ヒマに拘泥するとは確かにばかげた態度だろうが、わたくしは仕事ではなく趣味で写真を撮っている(もっとも撮影という所作はコレクションという行為に付帯してきたものでしかないのだが)のであり、趣味とは結果のみならず過程のどの瞬間にでも価値と判断基準を置きうるものであるから、手巻き上げという動作に撮影の愉しみを見出してもなんら恥ずべきことではない。それどころか勝手に巻き上げられてあとはフレーミングとレリーズだけお願いしますと云わんばかりのカメラでは、行為者としてのわたくしが介在する余地があまりに少ないと感じてしまうのは考え過ぎか。オートフォーカス、自動露出はもうだいぶ洗練されてきたのだし、いずれ、ここだと思った瞬間に勝手にカメラのほうでシャッターが切れてくれるようになるのが正しいカメラの進化の行程なのだろう。
     まあ、その手の夢想はどうあれ、わたくしにとって手巻き上げというのは、今まさに掌のなかでフィルムが送られ、次の撮影に向かうのだということを体感させてくれる、いわば気持ちの切り換え、一連の撮影作業の完了(または開始)の認識という点で、大切な「儀式」なのである。でも、もうひとつほんとの理由を白状すると、わたくしはモーターワインドの音や感触が生理的に嫌いなのだ。だってなんだか、写真を撮れと脅迫されてるようで気持ち悪いじゃないか。

    2004 Ochanomizu, Tokyo. F5,6, AE. ILFORD DELTA 400 PROFESSIONAL

     レンズの話だ。最初に断っておくとわたくしはハコ好きのコレクターだから、実はレンズの描写なんてものは、一家言ある連中の足許にある山の麓にすら辿り着けないほどよく判らない。巷間溢れかえるカメラ本やレンズ本に書かれているインプレッションを読んだところで、そうかもしれないしそうでないかもしれない、と云える程度なのだ。もっともこの手合いは主観で書かれているもので、また主観で書かれているからこそ意味を有つものだから、気に入ったポイントだけを信じればいいのだし、それが難しいというのなら自分の感性に近い評者のコメントだけ採用すればいい。MTFやチャート結果などという客観的データはそこから実写結果を推測できる器用な人だけが気に留めればいいのであり、ほとんどの人間にとってはコストパフォーマンス――つまり数字上の性能と価格とのバランス――を勘案して購入すべきかどうか決断するという、経済学的な難問解決のためのデータにすぎない。
     そんなごたくはともかくとして、久しぶりの現代レンズである。そもそも159MMを入手したのは勃然とこのゾナー2,8/85を使ってみたくなったからだ。85ミリのゾナーというのは、今ではプラナーの名声に隠れてあまり見向きもされないようだが、素性をただせば1933年のコンタックス用に始まる。当時海内の書籍でポートレイトや舞台撮影に最適と謳われた、半ば伝説めいた長焦点レンズだ。もっとも、その通称ハチゴゾナーの系譜は1972年のコンタレックスの終焉とともに一旦途切れ、いま、京セラコンタックス用としてラインナップされる85ミリゾナーは、その前にローライSL35用として再設計された構成を改良したものと思われる。ツァイスは85ミリの大口径レンズの将来をプラナーに託したとみえ、元祖エルノスタータイプに近しいレンズ構成の新しいゾナーは、開放F値が1絞り(プラナーに比すると2絞り)暗いF2,8となった。
     わたくしは85ミリプラナーを(F1,2はもとよりF1,4も)使い込んだことはないので、両者の比較など本来なにも語れない。「切れのゾナー、ボケのプラナー」という文句についてもその実はまったく判らないし、古いレンズばかり使っている経験からはむしろ「切れのテッサー、ボケのゾナー」のほうがしっくり来るのだが、そんなこと云っても現行ツァイス使いにはなんのことやらさっぱりなんだろう。しかし、カミソリ1枚のピント面を追いつめるような求道じみた作業は2本のプラナーに任せるとして、この新生ゾナーの良いところは小さく軽いことだったりする。最短撮影距離が1メートルというのも気にはならない。わたくしのように85ミリでスナップを撮ろうという向きには大変扱いやすくて便利な玉なのであり、そしてそのためにもRTSIIIやRX2のような弩級艦でなく、159MMやAriaくらいのカメラが欲しかったのである。



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    Text and Photo : (C)2004 Takanashi Yoshitane.
    プリントデータ:LPL VC6700, Apo-Rodagon N 2,8/50, ILFORD MGF.1K(8X10)2号
    ウエブ用データ:CanoScan D2400U、8ビットグレー、300dpi無補正でスキャン、PhotoShop5.0Jで原版を横1080pixelにリサイズ(余白カット前)
    サムネイルは画面サイズ1/4
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