◆ Contax II + Sonnar 2/8,5cm


    Contax II + Sonnar 2/8,5cm T + Finder mask 543/7
     発表当初からなにかと伝説につきまとわれたベルテレのゾナーのうち、18cmの「オリンピアゾナー」、F1,5の「高速ゾナー」と並んで夙に名高いのがこの「ハチゴゾナー」である。発売はコンタックスI型に1年遅れて1933年、マイナーチェンジを(ひそかに)繰り返すツァイスの流儀に漏れず、このハチゴも少しずつ改良を加えられてきた。田頭氏の「コンタツクスの使ひ方」によればシリアル151万台からとそれ以前とで著しい改善がみられたそうだが、わたくしは確認していない。さしあたってバリエーションの大雑把な分類目安になるのはI型時代の黒鏡胴、II型のクローム鏡胴、それに戦後の3種類(イエナ、オプトン、CZ銘)の計5つである。最小絞り値や鏡胴の形状、素材まで考慮すると更に増える(キーシング氏は13種に細分)が、それは措いておくとして、レンズ構成をみると戦前と戦後とで大きく変化する。つまり戦前は3群6枚(後群が接合ダブレット)で、戦後3群7枚(同じく接合トリプレット)となる。もっとも7枚になったのは戦後でなく戦時中とみる研究家もあり、1941年頃のシリアル270万台(特にTコーティングされたもの)では明らかに後群がトリプレットとなっているのが判る(写真のレンズがそうだ)。
     描写はというと、掛け値なしに美しい、と断言しよう。わたくしが云ってもまるで信憑性がないが、しかし他に云いようがない。先の田頭氏は「特に肖像には鮮鋭な中に充分画品を保った表現をすることが出来る」と評している。唯一の難点は斜光乃至逆光条件下にフレアが出やすく、こと開放絞りに近いと画面中央部のコントラストが派手に低下することだ。この欠点はしかし不思議なことに、同じ構成のまま細部をリファインされたコンタレックス用ハチゴゾナーではまったく見られない。その解法が奈辺にあったのか、気になるところだ。あと四隅の描写もあまり良くないのだが、ノートリミング以外では関係ないところだろう。

    2004 Hanno, Saitama. F5,6, 1/100. ILFORD DELTA 400 PROFESSIONAL

     このゾナーを使うボディはもちろんContax IIといきたい。人類が手にした機械の中で最も美しい機械の一つと評して憚らないカメラであるが、これが扱いにくい、重い、壊れる、という定説はまったくの謬見である――と断罪して悪ければ無知のなせる偏見である。だいたいクラシックカメラなんてものは重くて扱いにくくて壊れやすいのが当たり前なのだ。さすがに現代機と較べてそんな不満を述べる人の意見はそもそもこの世界に向いていないのだから一顧だに値しないとして、そうではない人種の云い立てる不満は結局取るに足りぬ差をもって殊更に強調しているだけのことであるから、特に気にかけるほどのことでもない。あえて彼らの主張する欠点をもって弁疏するならば、重いがゆえに保持しやすく、壊れやすいがゆえに愛着も強く、扱いにくいがゆえに満足のいくネガができたときの喜びもまた一入なのだ。そうは云っても趣味とは感性の賜物である。コンタックスのボディになじめないのならベッサR2Cを使うのが良い。これは実際、すこぶる実用的で信頼の置ける大変満足のゆくカメラである。唯一の欠点があるとしたら、それはクラシックカメラではないということだ。
     ちなみにこのコンタックスII型でハチゴゾナーを使う場合、アクセサリのファインダーマスクを使用すると一眼式RFの利点を最大限活かすことができるので、余裕があったら入手されたい。もとよりパララックス補正だの正確なフレーミングだのは望むべくもないが、そこが気になって仕方ない人はたぶん、この世界に向いてないから引き返せるうちに引き返すべきだ。



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    Text and Photo : (C)2004 Takanashi Yoshitane.
    プリントデータ:LPL VC6700, Apo-Rodagon N 2,8/50, ILFORD MGW.1K(8X10)2号
    ウエブ用データ:CanoScan D2400U、8ビットグレー、300dpi無補正でスキャン、PhotoShop5.0Jで原版を横1080pixelにリサイズ(余白カット前)
    サムネイルは画面サイズ1/4
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