■ Contax tips

 ベッサR2C/Sの発売で、コンタックスとニコンSのマウント規格が微妙に異なることがだいぶ周知のこととなったが、コンタックスI型(ブラックコンタックス、以下ブラコンと略)とコンタックスII型(クロームコンタックス、以下クロコンと略。III型も含む)とでも微妙な違いがある事実はあまり知られていない。これはとある著名な修理・研究家の指摘によって明らかになったことだが、ブラコンとニコンS系のマウント規格(繰り出し量と回転角の関係)は一致するのだ。手許にブラコンとクロコン(あるいはベッサR2C)、それにニコンS系(またはベッサR2S)がある人は3台を見比べてみると良い。ついでにバーニア付きノギスなんかがあるとなお都合が良い。ブラコンとクロコンとでは、0,9mでの回転角と繰り出し量が明らかに異なっているのが判るだろうか。
 つまり、ブラコン用の黒鏡胴レンズはクロコン以降のボディでは使えない代わりにニコンS系で使用することができ、その逆にニコンSレンズやコシナ=フォクトレンダーのS/Cレンズがブラコンで使用できるということだ。後者の組み合わせはよほど酔狂な人間でもない限り試みることもないだろうが、前者は結構実用向きだと思う。時折長焦点の黒鏡胴レンズをクロコンや戦後のa型コンタックスで使用してピントのずれを云々する記事を見かけるが、ピントが来ないのは当然なのだ。
 あ、しまった、これでただでさえ品薄の黒鏡胴レンズが払底してしまったら、それはわたくしのせいになるのか。

 実際問題として、どれだけの誤差が見込まれるのか。まずマウントを比べてみる。右はブラコンとクロコンのマウント部分(いずれもフィート表記)を重ねて合成したものだ。赤線がブラコンの、青線がクロコンの指標を指している。遠距離では刻印誤差の範囲内かもしれないが、近距離では明らかに回転角が違うのが判る。
 仮定として、ブラコンの基準焦点距離は51,6ミリ、クロコンのそれが52,0ミリだとしよう。ブラコンのそれはニコンSマウントと同等ということから、クロコンは通説から置いた数値だ。0,9メートルでの繰り出し量の差は、僅かに0,06ミリ程度である。数字で見るとほんの僅かに感じられるが、そもそも無限遠から1mまでを3ミリ程度の繰り出し量でまかなっているのだから、これは結構大きい。
 さて、実焦点距離52,0ミリと想定されるクロコン用5サンチレンズをブラコンにセットして、0,9メートルで撮影するとすると、ブラコンの0,9メートルでの回転角はクロコンのそれより僅かに少なく、繰り出し不足で後ピンになると予測される。理論的には26ミリほどの後ピンになるはずだ。下の3枚の写真は、ブラコン(クッツ分類ver.7)に3種類の5サンチレンズを装着して、距離計で3フィートのところで撮影したものである。レンズは開放絞りを使用した。


左:ブラコン用ゾナー1,5/5cm(S/N150万台) /中:ニッコールSC1,4/5cm /右:クロコン用ゾナー1,5/5cm(S/N270万台)

 撮影時のピント(距離計合致像)は書籍表紙の下から2行目の「chniques」の「q」の頭付近に合わせている。ニッコールとブラコン用ゾナーではほぼピントが合っているのに対し、クロコン用ゾナーではその上の行の「SKILLS」の頭付近にピントがずれている。明らかに後ピンである。横のスケールで見ると、4〜5サンチほどの後ピンだ。スケールは光軸に対して斜めになっているから、この実測値は理論値(3フィート≒914ミリでのピントずれ)の約41ミリに適合すると云える。
 内爪レンズでのずれはこれでほぼ実証されたと云ってもいいだろう。では外爪レンズではどうか。
 外爪レンズの連動は構造上、マウントヘリコイドの回転角のみにかかっており、マウントヘリコイドの繰り出し量(ピッチの差)にはなんら影響を受けない。このためマウントを同一にする外爪レンズはすべて、回転角と合焦距離の関係が一致するようになっている。上掲の写真で見る通り、近距離での回転角は異なるため、やはりクロコン用レンズをブラコンにつけると、繰り出し不足で後ピンになるだろうし、その逆では繰り出し過多で前ピンになる。
 いずれにしろ、ブラコンとクロコンではそのマウント規格が異なるため、レンズのスワッピングはできない、と云うのが事実なのだ。

補記:その後の調査で、(被写界深度による許容を別とした)ブラコン、クロコン間の互換性はやはり高いのではないか、という疑問が出てきている。また、ニコンS系とブラコン間の互換性についても、実は低いのではないかという指摘がある。本稿の結論についてはその後いくつかの反証が上がっているため、現在では断言することに躊躇があるのが正直な所だ。
なにぶん1次資料に乏しい上に、個体経年変化の問題が避けられないため、サンプル数が多いことに越したことはない。諸兄のご教示を乞う。2006.11



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