◆ How to use Contax II1/4

▲Contax II with Sonnar 2/5cm

 実際問題として、カメラは写真を撮るための道具である。戦前や戦後間もなくの金満家や見栄っ張りにとってはどうあれ、ステイタスを示す小道具なんかではない。棚の埃受けや紙押さえとして使うのならば、何も内部まで手入れされた、恐ろしく高価な金属の固まりを手に入れずとも、幾らでも代用品はあるものである。しかし、ここではコンタックスIIを、写真を撮るための聊か重みのある華奢な工業製品として、扱うことにしよう。
 不幸にしてクラシックカメラというものは、現今の機械のようにあちこちの出っ張りやボタンを押したり引いたりしていれば、どうにか動かすコツを覚えられるというほど、使用者に対して寛容な代物ではない。それは、依然として手作業による組立が主流だった頃の、物理的連動による精密機械であるから、予備知識のない不用意な操作は時として――というよりも常に、貴重ながらくたを字義通りのがらくたにする危険性をはらんでいる。一番良いのは、その製品の取扱説明書を熟読することだが、これはカメラそのものよりも入手が難しい。そこでここでは、良く知っている人には恐らく不必要であろう、コンタックスIIの使い方について書いてみる。
 今しがた記したように、すでにこのカメラに慣れている人が、この先を読む必要はない。これはひとつには、これから初めてこの優美なカメラを使って写真を撮ってみよう(ここが一番肝心である)という人のために、ふたつにはわたくし個人の覚えのために、書き綴ったものに過ぎない。
 目の前にあるコンタックスIIが、保証付きの良く整備された機械であるのなら、ためらうことはない。だが、個人間の取引や、委託販売で手に入れたものであったり、あるいは旧家の物置の奥から引っぱり出してきたようなものであったならば、しかるべき場所か人に依頼して、各部の状態をチェックして貰うほうがよい。自分でその確認ができる人であれば、そもそもこんな文章を読む必要はないはずだ。


Contax II
a:セルフタイマーボタン(bの背後)
b:セルフタイマーレバー
c:距離計副対物窓
d:アイレット
e:巻き上げノブ
f:レリーズボタン
g:カウンター窓
h:フォーカシングギア
i:インフロックレバー
k:アクセサリシュー
l:巻き戻しノブ
m:ファインダー対物窓
n:レンズ取付バネ
o:裏蓋ロックキー
p:三脚ネジ穴
q:折り畳み足
r:スプール押さえ爪(供給側)
s:アイピース
t:カウンタセットギア
u:スプール押さえ爪(巻き取り側)
v:フィルム押さえバネ
w:スプロケット
x:アパチュア
y:巻き戻しボタン

裏蓋を外す

 裏蓋の開け方はそう難しいものではない。にもかかわらず、前のオーナーが開け方を知らなかった例をひとつだけ知っている(つまり彼はそのカメラを使ったことがないということだ)。何はともあれ、開けてみよう。
 コンタックスもライカも、その裏蓋(ライカでは底板だが)は現在主流の片観音開きではない。ニコンFを知っている世代なら、コンタックスの裏蓋に違和感はないだろう。要するに、コンタックスの場合、裏蓋は開けるのではなく、外すのである。
 底板の両端に、2つの回転キーがある。この半円のロックキーを立ち上げ、半回転させる。半分よりも回るか、左右いずれの方にも回転する場合は、内側の止め爪が折れているか曲がっている可能性がある。正しくはキーの付け根の支柱が、外側を向いた状態でそれ以上回転しなくなるはずである。この状態で、底板と一体になった裏蓋を、下側へスライドさせるようにして取り外す。

▲ロックキーを回す▲裏蓋▲ボディ背面(裏蓋を外したところ)

 裏蓋の内側を見て、念のために、フィルム圧板のスプリングが正常な張力、平衡性を保っているか、圧板の黒塗装がひどく剥げていないか、確認する。バネを元に戻すのはそんなに厄介なことではないが、塗装が派手に剥げているものは注意を要する。露出光の再反射によるカブリの危険性があると云われているからだ(もっとも実害にあったことはないのだが)。しかしそれよりも問題なのは、圧板の表面にこまかなささくれがみられる場合である。これはフィルムベースに傷をつける可能性がある。
 次はボディを見てみよう。中央の四角い窓に、妙な黒い簀の子が見えるはずである。これが当時世界で最も堅牢で、最も脆弱だったシャッター幕である。幕というより板である。裏蓋を取り外す際に、過って角や圧板などで突かないよう、注意すること。見た目ほど頑丈ではないからだ。このシャッター幕、というか板の黒塗装が、やけに剥げているのも困り者である。向かって右側のフィルム室に取り出し可能なスプールが入っていないというのは、更に困り者である。というか、むしろ事態は深刻である。そのままでは写真を撮るどころか、フィルムを装填することすらできやしない。近くの中古屋かジャンク屋でスプールを買ってくるか、不要なパトローネを分解して自作するほかない。なお、左のパトローネ室にスプールが入っている場合は、事態は思ったほど深刻ではない。

フィルムの装填

▲スプールの各種(戦前〜戦後)
▲フィルムの噛ませ方

 コンタックスIIのスプールには、大体3種類がある。古いものほどフィルムを噛ませるのに手間がかかるが、2番目のものよりかは信頼性がある。波形のスリットがある一番古いタイプでは、差し込んだフィルムの舌の先を、1、2mmほど出して外側へ折り曲げておく。斜めになった切り欠きに舌を噛ませる2番目のタイプは、パーフォレーションにひっかける樹脂製の爪が折れやすいことに注意する。
 次にスプールを右のフィルム室に、パトローネを左のパトローネ室に入れる。押さえの板バネが大きく曲がっていたり、端が折れ曲がっていたりするときは、フィルムに傷を付けることがあるので、元に戻しておこう。特に右のフィルム室の押さえには注意することだ。あまりにひどい状態であれば、実用上、これはなくても構わない。
 パトローネとスプールをセットしたら、少し巻き上げてスプロケットにパーフォレーションを噛ませよう。できれば上下とも爪を噛むところまで巻き上げる。なお、コンタックスは順巻きである。なんのことかというと、フィルムのベース面(黒い面)を外側にしてスプールに巻き取ることをさす。ライカや古いマニュアル一眼レフでは、逆巻きであることが多い。この場合、スプールには乳剤面(ネガなら肌色の面)を外側にして巻きつけることになる。逆巻きの利点はスプロケットに接する長さを多くとれる点であったが、最近のカメラではほとんどが順巻きだ。
 スプロケットに噛ませたら、爪の部分を押さえながら、フィルムが張るまで巻き戻す。裏蓋をガイドレールに合わせて、ゆっくりスライドさせるようにはめ込む。フィルムがスプロケットから外れないよう、親指で押さえながらやると良い。きっちりはめ込んだら、底面のキーを先ほどと逆の手順でロックする。それから巻き上げ、空シャッター切り、を2、3回繰り返す。この巻き上げのとき、巻き戻しノブが回転していなかったら、それはフィルムがちゃんと送られていないことを意味しているので、フィルムの装填をやり直す。これはクラシックカメラに限らず、すべての機械式マニュアルカメラに云える注意事項である。


▲順巻き(上)と逆巻き(下)▲フィルムを装填した状態

▲レリーズボタン(左フリー/右ロック)
▲フィルムカウンターのセット

 コンタックスのシャッターは極めて脆弱な要素をもっているため、撮影準備のための空シャッターを切ることを厭がる人もいる。その場合は、シャッターチャージ(つまり巻き上げ)の前に、レリーズボタンを押し込んだまま、左に半回転させるとロックがかかる。これで幾ら巻き上げても、シャッターはチャージされなくなるので、カウンターを見て2、3枚分巻き上げ、しかる後にレリーズを右に半回転させて元に戻す。レリーズが正しい位置(シャッターチャージとレリーズが可能)にある場合、ボタンの赤点とノブ上面の赤点とが正対するはずである。ロックがかかっている場合は、赤点がそっぽを向いており、なおかつボタン自体が押し込まれたままである。
 撮影準備の最後の仕上げとして、フィルムカウンターをリセットする。むろんリセットボタンはない。背面に露出したギアを回して、カウンター窓の三角の出っ張りに0を合わせる。カウンターの赤点(26枚目にあたる)は、コンタックススプールを使うときだけ意味を持つので、現代では気にすることはない。知識として書いておくならば、コンタックススプールにはコマ数にして6コマ分の紙のリーダーがついていたので、フィルム装填後赤点に合わせ、0表示になるまで巻き上げれば(11コマ分に相当する)、リーダー部分は完全に巻き取られて撮影開始できるという寸法である。
 このカウンターの欠点は、ギアが背面側に少し突き出ているため、ストラップで肩や首から吊り下げて動き回っているうちに、衣服に擦れて回転してしまうことがままあるということだ。これは滅多に完全品が手に入らない専用の速写ケースに入れるか、市販のカバーで包むかすれば回避できる。撮影データを克明に取っている人であれば――そもそもカウンターなど必要ない。


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